サイトを閉じるとき何を消し何を残すか
キャンペーンサイト、旧コーポレートサイト、統合前の学校・院内の別サイト。役目を終えたのに、サーバーの片隅で動き続けている WordPress があります。誰も更新しておらず、当時の担当者も異動している。消していいのか、消したら後で困るのか判断がつかない——という状況で読まれることを想定した記事です。
先に結論
- 更新されない WordPress が公開されたまま残ることが、閉鎖サイトで最も避けたい状態です。放置は「何もしていない」ではなく「古いまま公開し続けている」ことを意味します
- 閉じる作業は「消す」ではなく「残すものを決めてから消す」順序で進めます。先に控えを確定させれば、削除の判断が軽くなります
- 残すべきものは、ファイル一式・データベース・ドメインと DNS の記録・第三者サービスの連携情報の 4 つに整理できます
- 保管期限は「いつまで取っておくか」ではなく「誰が、何を根拠に、いつ捨てると判断するか」を先に決めます。期限のない保管は事実上の放置です
閉鎖サイトが入口になるのはなぜか
運用中のサイトには、見ている人がいます。表示が崩れれば誰かが気づき、問い合わせが来なくなれば営業が気づきます。閉鎖サイトにはそれがありません。異常が起きても、気づくきっかけそのものが存在しない状態になります。
そのうえで、WordPress は公開されている限り外部から到達できます。本体・プラグイン・テーマ・PHP のバージョンが当時のまま止まっていても、URL を開けば応答は返ります。「アクセスがないから狙われない」は成り立ちません。人が見に来るかどうかではなく、機械的に到達できるかどうかで判断されるためです。
同じサーバー契約の中に運用中のサイトが同居している場合、影響が閉鎖サイト単体で終わらない可能性もあります。契約の区切りとサイトの区切りは、必ずしも一致しません。
もう一つ見落とされやすいのが、送信を受け付ける機能です。問い合わせフォームやコメント欄が生きたままだと、閉鎖後も外部からの送信が届き続けます。届いた先のメールアドレスがすでに使われていない場合、送った側は「返事が来ない会社」として記憶します。閉鎖したはずのサイトが、評判の面で動き続けてしまう形です。
先に決めること — 残すものを 4 つに分ける
削除から入ると、判断が止まります。「これは消していいのか」を一件ずつ考えることになり、答えが出ないまま作業が中断するためです。順序を逆にします。後から必要になる可能性があるものを先に列挙し、列挙が終わるまで何も消しません。列挙が終われば、残りはすべて消してよいものになります。
列挙の枠は、次の 4 つで足ります。
- ファイル一式 — テーマ、アップロードした画像や PDF、独自に手を入れたコード
- データベース — 記事本文、固定ページ、各種の設定値
- ドメインと DNS の記録 — どのドメインで公開していたか、メールを受けていたか
- 第三者サービスとの連携 — アクセス解析、外部のフォームサービス、決済、SNS 連携
ファイルとデータベースは対で残す
WordPress は、見た目と仕組みをファイルに、中身をデータベースに分けて持っています。ファイルだけを保存しても、記事本文や固定ページは戻りません。逆にデータベースだけでは、画像も PDF も表示されません。2 つは必ず対で残します。
制作会社に納品物がある場合は、そちらの所在も確認しておきます。デザインデータや元原稿が手元にあれば、後で作り直すときの起点になります。
そして、控えは取っただけでは足りません。圧縮ファイルが開けるか、データベースの書き出しに必要なテーブルが入っているか、一度は確かめておきます。閉鎖時の控えは、取ってから開くまでの間隔が数年単位になりがちです。取得と復元が別物であることは、バックアップは「取れている」と「戻せる」が別物で扱っています。
ドメインとメールは別枠で考える
サイトを閉じることと、ドメインを手放すことは別の判断です。特に、そのドメインでメールを受けていた場合は影響範囲が変わります。名刺や過去の書類に印刷されたアドレスは、サイトを消しても回収できません。
DNS の設定内容は、消す前に画面を控えておきます。どのレコードがどこを向いていたかが分かれば、後で「あのサブドメインは何だったのか」を追えます。
閉じ方には段階がある
いきなり全消去する必要はありません。段階を踏むと、判断を誤ったときに取り戻せます。
- 公開停止 — 外部から到達できない状態にします。この時点で「古いまま公開されている」という問題は解消します
- 静的化 — 表示だけ残したい場合、WordPress を動かさず HTML として保存する方法があります。更新機能を持たないぶん、維持の負担が小さくなります
- サーバーからの削除 — 控えの確認が済み、保管場所が別に確保できてから行います
- ドメインと DNS の整理 — 手放すか保有し続けるかを、最後に判断します
重要なのは、第 1 段階だけでも効果が出ることです。控えの確認が終わらなくても、公開停止は先にできます。時間がかかる作業と、すぐ効く作業を分けて考えます。
第 4 段階のドメインには注意が必要です。手放したドメインは第三者が取得できます。組織名や事業名、学校名を含むドメインは、保有を継続する判断も検討に値します。年間の維持費と、無関係な内容が同じ名前で公開される可能性を並べて考えます。
各段階で「誰が承認したか」を短く残しておくと、数年後に経緯をたどれます。閉鎖の記録は、担当者が変わったときにだけ価値が出ます。
保管期限をどう決めるか
「念のため取っておく」で始まった保管には、終わりがありません。期限がないため永久に残り、担当者が変わると中身も分からなくなります。期限のない保管は、保管ではなく置き場所を変えた放置です。
期限を決められないときの目安
期限は、用途から逆算すると決めやすくなります。会計や契約関連の書類保存年限に合わせる、次のサイト制作が完了するまで、統合先サイトへの移行検証が終わるまで。いずれも「その時点が来たら判断する」という終点があります。年数そのものより、終点が存在することのほうが重要です。
個人情報を含むデータを残す場合は、期限の設定が特に効いてきます。フォームの送信履歴、会員データ、応募者情報などが該当しやすい部分です。保管する理由が説明できなくなった時点が、捨てるべき時点になります。
残す判断そのものを記録に残す
保管したファイルは、削除計画とセットで記録します。何を、どこに、いつまで、誰が判断して捨てるか。この 4 項目が書かれていれば、次の担当者は迷いません。
保管場所そのものの管理も必要です。共有ストレージの奥に置きっぱなしにすると、そこが新しい放置先になります。閉鎖サイトを片付けたつもりが、別の場所に同じ問題を移しただけ、という結果は避けたいところです。
閉じたつもりで閉じきれていない箇所
トップページを見ただけでは、その裏に何があるか分かりません。閉鎖作業の後で見つかりやすいのは、次のような場所です。
- サブディレクトリやサブドメインに、別の WordPress が入っている
- テスト用・確認用に作った複製が、本番と同じサーバーに残っている
- 転送設定だけ入れて、中身の WordPress は動いたまま。転送されていても本体そのものには到達できる
- 外部サービス側の連携が生きていて、サイトを消してもデータのやり取りが残っている
確認の手順は単純です。契約しているサーバーの管理画面で、ドメインとディレクトリの一覧を上から通しで見ます。そして件数を数え、自分たちが把握している数と照合します。数が合わないときは、合わない分がそのまま把握できていない範囲です。
古いサイトほど、PHP のバージョンが上がった時点で動かなくなっていることもあります。表示が崩れているサイトが見つかったら、PHP のバージョンを上げると、なぜ古いサイトが止まるのかで背景を確認すると、直すか閉じるかの判断がつけやすくなります。
閉じないと決めた場合にやること
検討の結果、残すという判断もあります。その場合、そのサイトは運用中のサイトと同じ扱いになります。更新の対象に入れ、動作確認の対象に入れます。「閉じない」は「そのままでよい」ではありません。
更新を続ける体制が用意できないなら、静的化か公開停止のどちらかに寄せるほうが現実的です。中途半端に残す選択が、いちばん維持しにくくなります。更新をどこまで自動に任せられるかは、WordPress の自動更新は安全かで整理しています。
「年に一度だけ見る」という運用は、見ない年が来た時点で成立しなくなります。頻度を決めるより、担当者と手順を決めるほうが続きます。誰が、どの画面を開いて、何を確認するか。ここまで書いてあれば、担当者が代わっても引き継げます。
最後に、費用を並べて比較します。残して維持し続ける費用と、いま閉じる作業の費用。閉じるほうが安く済むことは珍しくありません。判断材料として、WordPress の保守費用は何にいくらかかるのかで内訳の考え方を示しています。
サイトを閉じる作業は、公開するときほど段取りが用意されていません。誰かが「もう使っていない」と気づいたところから始まり、判断する人がいないまま止まります。残すものを先に決めれば、消す判断は驚くほど軽くなります。まずは、いま把握しているサイトの数と、契約上存在するサイトの数が合っているかを見比べるところからで十分です。
